FRIENDS -Long time no see-
by.りあ
2004/11/21(日)
高い高い青い空に吸い込まれる、独特の音を想像しながら吹き込んだ息は、あえなく不発に終わった。
冒険に出てもう何日が経ったのか。
森の長でもあった老木に世界の命運を託されたのは、つい先日のことのように思える。
疲れて座り込んだ切り株の上で幼馴染からの贈り物を思い出して、リンクはオカリナを唇に運んだのだった。
もう一度。
今度はこころもち唇を突き出すようにして吹いてみる。
が、それくらいで音が出るほどオカリナは甘くなかった。
「・・・ 音出ない」
これではいくらなんでも貰った意味がないのではないだろうか。
追い討ちをかけるように青い発光物がぽこぽこと頭にぶつかってくる。
「うっわー!今の何!?ひどい音ねッ!」
「ナビィ・・・」
痛いなどという反論は聞き入れてもらえそうにない。
「・・・だって、吹き方知らないもん」
「ゼルダの子守唄は吹けたじゃない」
「あれはたまたまだよ。実際、あれ以来吹けたことないし」
少々むくれて言葉を返すと、ナビィは何をいまさらという意味をこめて盛大なため息をついた。
すぐ身近にスペシャリストがいるというのに。『宝のもちぐされ』ってこういうことを言うんじゃないの?
「そんな事っ、サリアに教えてもらえばいいじゃない」
サリアの名前に鋭く反応したリンクは、そのまましばらく考え込んだ。
おおかたあれだけ立派に森を出てきた以上、まだ何も成し得ないままに、しかも「オカリナの吹き方がわからない」という理由で戻るのは気がひけるのだろう。
まったく、見栄っ張りなんだから。ナビィがそう思いながら横顔を眺めていると、目の前の緑のかたまりは突如腰を上げた。
「じゃ、いってみようか。」
茂る葉も、大きな枝も、妖精たちも。たった数日離れていただけで故郷というものはこんなにも懐かしい。
緑の帽子についてふわふわと飛び回りながら、ナビィは目を細めた。
「森に来るのも久しぶりね。」
声もいささかはずんでいる。
リンクはそんな声は聞こえていないかのように、先程から前だけを見てずんずん歩いている。
頭の中でシミュレートしているのかもしれない。サリアに会って、なんて言おう。
やがてトンネルを抜けると、コキリ族の住まう村に出る。
風景も人々もかわらず、この日具合ならじきにやってくるだろうと予測していた通りに、少女たちはこちらに向かって歩いてきた。
「おーい!!」
声をかければ、彼女たちは懐かしい笑顔で返してくれるだろう。
リンクは親しみをこめて呼ぶが、
「あ・・・」
少女たちはこちらの姿を確かに見て、確かに理解して、そして戸惑った顔を見せた。
さらに一瞬ののちにくるりときびすを反すとばたばたと駆けていってしまった。
「・・・ッ!なーにっアレ!!!!!」
「何かあったのかな?」
憤慨したのはナビィだ。
自分たちに対する仕打ちに納得がいかないとばかりにそこら中空をぶんぶん飛び回っている。
いつかどこかにぶつかってしまうのではないだろうかと無駄な心配までしてしまうほどにその飛び方はすさまじい。
リンクのほうは、確かに納得いかないけれど、それよりも彼女たちの行動の原因のほうが気になった。
このご時勢だ、魔物が襲ってくる村もざらにあるだろう。誰か、何か知っていないか。
遠くのほうで、さっきの少女たちが大きな木に向かってなにか話しかけているのが小さく見えた。
いや、木にではない。あれは・・・
「−そうだ!」
「リンク?」
叫んで走り出すリンクに、ナビィは疑問符だらけの頭のままついていくしかなかった。
森を見渡せる、大きな木を登る。
リンクの脳裏によぎったのは、木の上で足をぶらぶらさせながら大将気取りでいばっている少年の姿だった。
彼ならきっと今もそこにいる。そしてその思いに違わず、そこには大将気取りの足がぶらぶらしていた。
リンクはほっと息をついた。
「良かったぁ。お前ならここにいると思ったんだ」
その目が、リンクを認めて、なんだお前かという色を浮かべる。
「ミド」
ちょっとだけ顔を顰めて、ミドはそれまでの自分のテリトリーから身軽に飛び降りた。
やっぱり何か知っている。
そう確信したリンクは、拒否されている空気を無視して追いすがった。
「なぁ、何かあったのか?お前なら知ってるだろ?」
なおも答えない。なおも追う。
そうして次の言葉が引き金になった。
「・・・なぁ、サリアは、どこにいるんだ?」
目の前を陽に焼けた肌の色が通り過ぎて、気付いたときには小気味の良い音とともにリンクは右を向かされていた。
痛みは感じなかった。そのかわり頭もまわらなかった。
「な・・・っっ!!!」
例によって先に我に返ったのはナビィだ。
叫びかけた文句は、しかしミドによって遮られた。
「サリアは“いつもの場所”から帰って来ねぇ!お前が出てってからずっとだ!!」
いまだ空っぽの頭に、ミドの声がひどく響く。
「サリアに一番近かったのはお前だろう!?なんで泣かせたりしたんだよ!!」
大将気取りの少年の、その目が赤くにじむ。
殴られた痛みが、じわりと戻ってくる。
「お前がいなくなってからサリアはずっと泣いてたんだぞ!ずっとずっと泣いてたんだぞ!!」
息が詰まった。
見慣れていた幼馴染の顔が頭にかすんで浮かんだ。
頭がはっきり動いたときには、リンクの体はすでに走り出していた。
「リンク!?」
ナビィには追うこともできないほどに、主人は見えないところまで行ってしまう。
「・・・場所、わかるのかしら」
「違ぇよ」
独り言に、ミドが返事を寄越す。大きな雫が、その目からこぼれていた。
「逆だ。『アイツじゃなきゃ』わかんねーんだ。・・・畜生」
その小さな背中が、こらえた息遣いが、悔しいと伝えている。
「俺だったら絶対悲しませたりしない。絶対泣かせたりしないのに。どうして俺じゃだめなんだ?」
遠く晴れた空が、少女の名前を吸い込んだ。
“いつもの場所”に向かうには、多くの障害があることは知っていた。
道がひどく複雑であることも。それでもそんな事は気にならなかった。
頭より先に反射神経が動いた。
耳の奥でよく馴染んだ音を辿り、こんなところにまで多く徘徊する魔物を切り開き、頭の奥では昔むかしに聞いた詩が反芻していた。
“どうか
どうか手遅れでないように“
オカリナの音を探して走る。
“悲しみの涙がほほを伝っても
運命を呪うことのないように“
剣が、魔物の体にめりこむ感触を覚える。
“言葉で伝えられないぶんの想いは
そのメロディーにのせて飛ばすから“
転んだことにも、起き上がったことにも気付かなかった。
“その愛すべき笑顔が
僕を救ってくれた心が“
陽のあたる広場が見えた。
“けしてくもることのないように”
風が、来訪者を知らせて通り過ぎた。
“−祈りを”
しみじみと顔を見る暇はなかった。
頭より先に反射神経が動いていた。
いつのまにか自分より一回り小さくなった体を、確かめるように腕の中に閉じ込めていた。
“その祈りを
メロディーにのせて飛ばすから“
どうしてリンクがここにいるのだろう。
どうしてここにいて、私を抱きしめているのだろう。
どうしてこんなにも、暖かいのだろう。
サリアの頭もひどく混乱した。
どうしてどうしてどうして。
口をついて出たのは、彼が幼いころによく問いかけた言葉だった。
「リンク?リンクどうしたの?」
「・・・・」
「え?」
そのままの体勢でリンクがこぼした言葉を、サリアは拾いきれず聞きなおす。
唇が、耳元近くまで寄せられて、その言葉はようやく届くに至った。
“どうか どうか”
「ただいま」
どうしてこんなにも暖かいのだろう。
わかっているのは、返す言葉だけ。
「おかえりなさい」
悲しみではない涙がふたつ、こぼれて交じり合って落ちて。
陽に暖められて、やがて消えた。
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